パワープレーから組織的なパスサッカーへ転換した「現・アジア王者」豪州

 2018FIFAロシアW杯アジア最終予選。日本は10月シリーズ最初となる第3節、イラクをホームに迎えました。先制しながら課題のセットプレーから追いつかれる苦しい展開でしたが、追加タイムとなる95分にMF山口蛍選手の劇的なゴールで2-1と勝利。

 この結果を受けて、ここまでの3戦を2勝1敗としたものの、順位としては6カ国中の4位。グループ1位と2位がW杯出場権、3位がアジア最終予選のグループ3位同士でのプレーオフ勝利+北中米カリブ地区4位との大陸間プレーオフでの勝利でW杯出場権獲得。というレギュレーションから考えると、現在の日本は未だにW杯出場圏外に位置しています。


開催国となった2015年初頭のアジアカップで初優勝を飾った豪州。どこからでも得点のとれる魅力的なチームだ。by For The Win

 そして、そんな日本がイラク戦から中4日で迎えるのが、アウェイでのオーストラリア戦。日本が属するアジア最終予選のグループBではFIFAランキング最上位国である45位にして、アジアの頂点を決める「アジアカップ」では、直近の2015豪州大会で初優勝を飾った『現・アジア王者』です。

世代交代とスタイルの大転換をアジア制覇へ繋いだポステコグルー監督


世代交代と大幅なスタイルの転換を「アジア王者」という成果に繋いだポステコグルー監督。by Zee News

 2015年初頭に開催国として挑んだアジアカップを制した豪州。しかし、彼等は長年に渡って着手できなかった世代交代を施すにあたり、2013年10月にブラジルW杯最終予選の突破を決めていたにも関わらず、当時のホルガ―・オジェック監督を解任。現在のアンジ・ポステコグルー監督体制へ移行しました。

 そして、ブラジルW杯本大会まで1年を切っている段階で就任した現監督は選手選考にも大幅な変更を施し、強引に世代交代を敢行。豪州はもともと身長の高い選手のフィジカル能力を活かしたパワープレー重視のサッカーをしていましたが、国内リーグ優勝で名を上げた新進気鋭のポステコグルー監督の下、国内の有望な若手選手を積極登用する事で、そのスタイルも大幅に変化させました。

 豪州はブラジルW杯のグループリーグで前回大会の両ファイナリストであるスペインとオランダ、新興著しいチリが同居するという、奇跡が起きても勝てないような強豪国が相手とあって、本大会にも若手中心の新チームで挑みました。

 結果は3戦全敗でしたが、大会3位と躍進したオランダ相手に1度は勝ち越した末の2-3の逆転負けという壮絶なゲームをやってのけたり、「走力王者」チリにも走り負けないアグレッシヴな姿勢を貫きました。実は豪州はグループリーグ3試合のデータでは走行距離が参加32ヶ国中でトップを記録。参加した4カ国合計で3分9敗の未勝利という惨敗に終わったアジア勢で最も良い印象を残した成長過程にいるチームでした。

 FIFAランキングではアジアカップ開催前には100位という3桁の順位まで急降下していましたが、そうしたデイティールの見極めは”我慢”をポジティヴに捉える意味で重要です。
 
 ポステコグルー監督と豪州協会は、ブラジルW杯さえ準備期間に費やした世代交代を、開催国で迎えたアジアカップ優勝で見事に成就させ、従来のフィジカルやパワー任せなスタイルから、スピードやテクニック・運動量を活かす世界のトレンドを取り入れた新たなスタイルを植え付けた上でアジアを制したのです。

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長身FWユーリッチと”日本キラー”の脅威、攻撃スタイルの象徴=レッキー&クルーズ


現在の豪州を象徴する快速ウイングFWレッキー。写真のようにブラジルW杯でも複数のチリDFを相手に手玉にとったドリブルは希少価値が高い。by The Guardian

 アジアカップ優勝という大きな成果を残したチームで、今後を託し得る若手タレントが伸び伸びとプレーする姿は実に魅力的です。

 中でも、FWマシュー・レッキー選手(現・インゴルシュタット/ドイツ)はスピードとテクニックを武器にチャンスメイクから最終局面での打開力まで発揮してブレイク。中央・サイド問わずに積極的にボールを受けてはドリブルで仕掛けられる存在です。ボールタッチも繊細でスピードも抜群な彼が、緩急自在で足技も使いこなすドリブルには魅了されてしまいます。彼がいなければ豪州のパスサッカーは味気ないものになってしまったかもしれません。

 そして、ドイツの強豪であるバイヤー・レヴァークーゼンに所属するFWロビー・クルーズ選手は相手DFとMFの2ライン間で意表をつくアイデア溢れるプレーができる所謂”10番”の選手。この2選手の台頭により従来のパワーサッカーだけでなく、”日本化”したようなショートパスを繋ぎながら試合の主導権を握る戦いを見せるようになりました。

 ただし、パワープレイを捨てたわけではなく、最前線には”日本キラー”の大ベテランFWティム・ケーヒル選手も控えています。36歳となって先発出場は厳しいものの、滞空時間の長い空中戦の強さは、現在の日本の弱点でもあるだけに、その存在は未だに脅威です。

 また、25歳のFWトミ・ユーリッチ選手(ルツェルン/スイス)は190cm前後の長身ながらスピードとドリブルでの突破力も兼備。クラブでも代表でもアジア王者に導く決勝での活躍など、大舞台に強いFWです。

 そして忘れてはいけないのが、アジアカップの大会MVPに選出されたMFマッシモ・ルオンゴ選手(現クイーンズ・パーク・レンジャーズ/イングランド2部)。アジアカップ決勝で、後方からの縦パスを柔軟なトラップから前を向き、強烈なミドルシュートを決める一連のボールタッチの優雅さにはウットリさせられました。セントラルMFながらプレーエリア的には右サイドに開いてスぺ―スを作り、クルーゼ選手やレッキー選手と絡んでドリブルや豊富な運動量で流動的な攻撃を促す事もできる機動力も兼ね備えています。主役キャラではないかもしれませんが、2得点4アシストを挙げてアジア王者へ導いた彼の存在は無視できないでしょう。

チーム最大の実力者=現代型CBセインズベリー


【筆者の独断】現在の豪州で最高の実力者と思われるDFセインズベリー。アーセナルのDFコシールニーにプレーも雰囲気も酷似する現代型CBとして、日本の前に立ちはだかる。by Zimbio

 そして、そんな攻撃的なパスサッカーを後方から支えるのが、DFトレント・セインズベリー選手(現・江蘇蘇寧/中国)。アジアカップ決勝のプレイヤー・オブ・ザ・マッチに選出されたCBです。

 彼が2014年から2年間所属していたオランダのPECズヴォレはオランダカップとスーパーカップで共にオランダ王者のアヤックス・アムステルダムを下してタイトルを獲得しています。小さな地方クラブながら、後方からのビルドアップを駆使したプレースタイルを持つクラブでの経験も大きかったのでしょう。

 攻撃志向が強く前がかりになるチームには的確なビルドアップ能力はもちろん、読みが鋭く、1対1を”個”で勝てるDFがいないと成立しません。彼はそれを高次元で成し遂げており、近い将来のステップアップを感じさせる選手だったのですが、現在は中国でプレーしています。今季開幕前、2人の現役ブラジル代表MFアレックス・テイシェイラ選手とMFラミレス選手を「100億円補強」で獲得して話題となった江蘇蘇寧でプレーしているのですから、ある意味では”ビッグクラブ”に引き抜かれたのです。

 アーセナルのフランス代表DFローラン・コシールニー選手に似ており、速さにも高さにも強さを発揮できる稀少価値の高いDFです。180cmとCBでは小さい部類になるのが危惧されますが、セットプレーからの得点源にもなれるヘディングには強さがあります。日本が育成すべきCBの理想像と言えるでしょう。

 また、どんどんぺナルティエリア外でも飛び出していく”リベロ型GK”がアジアにも必要になってきた中、彼等にはその系譜にあるマシュー・ライアンという優秀な若手GKが台頭して来たのも大きかったでしょう。豪州ではマーク・シュウォーツァーというイングランドで大活躍してきた絶対的な大ベテラン守護神が引退しました。スペインの強豪バレンシアに引き抜かれてプレーする現代型のGKとしての実力を伴ったライアン選手は、世代交代の成功とスタイル変更の時代の流れをも象徴する選手なのかもしれません。

いよいよオーストラリア戦

 本日、アジア最終予選で日本の前に立ちはだかる大きな壁=豪州。こういったチームに勝つための戦い方こそが、ヴァヒッド・ハリルホジッチ監督の提唱する「縦への速さ」や「デュエル(1対1の競り合い)の強さ」をコンセプトとした戦略のはず。

 ハリルホジッチ監督の進退問題にも発展しかねない中、パスサッカーに転換した豪州とカウンター志向に変身した日本という相反したスタイルで戦いに挑む両国の対戦は、本日18時キックオフです!(テレビ朝日系生放送)

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