多くのJリーガーを生んだ育成プログラム、アジアの火を灯し続ける存在
ハンブルガーでのユース時代のソン。韓国協会が主導する留学制度の大成功例となった。by Defensive Midfielder
そんなソン・フンミン選手は16歳にして韓国サッカー協会が主導している「優秀選手海外留学プログラム」の第6期生としてハンブルガーのユースに派遣されています。
韓国協会は2003年から毎年3人ずつ1年間をかけて海外クラブのユース組織へ優秀な選手を留学させており、渡航費や現地での滞在費を負担しています。日本でもプレーしたチョ・ヨンチョル選手(3期生)、ナム・テヒ選手(5期生)、現在Jリーグでプレーするジェフユナイテッド千葉FWイ・ヨンジェ選手(5期生)、サガン鳥栖のキム・ミンヒョク選手(6期生)、現在はタイ・チョンブリFCでプレーする湘南ベルマーレのMFキム・ジョンピル選手(6期生)もこのプログラムの出身者です。
同制度はソン・フンミン選手たちの6期生を最後にいったんは終了し、現在は「優秀選手奨学金制度」と形態を変えましたが、この制度の効果をソン・フンミン選手が示しているので、韓国が見直しの検討に入るだけでなく、日本を含むアジア諸国にも拡がっていく制度になるかもしれません。
ソン・フンミン選手はこの育成プログラムからハンブルガーでトップチーム契約を勝ち取り、香川選手がドイツを去った2012-2013シーズンに12得点を挙げて大ブレイク。翌シーズンから強豪のレヴァークーゼンに引き抜かれても10得点、翌季も11得点。日本代表FW岡崎慎司選手の2年連続を越え、ブンデスリーガ3年連続2桁得点を記録しました。現在は欧州サッカー界で香川選手や本田圭佑選手(現・ACミラン/イタリア)を筆頭する日本勢が不調に陥る中、”アジアの火”を灯し続ける貴重な存在です。
アジアサッカーの道標となったドイツ アジアとドイツが生んだ孫興慜の成功を祈る
エースFWケイン(左)が離脱している事を感じさせないほど、現在のソン・フンミンの活躍は際立っている。by The Independent
日本にとっての”永遠のライヴァル”である韓国。日本が毎回苦しめられるそのスタイルは、ロングボールを放り込んでくるモノ。時代によって多少の誤差はあってもパスサッカー路線を継続する日本サッカーとは相反するように感じるものです。
しかし、実際は密接な関係があり、「日本サッカーの父」と言われる実質上の『初代外国人日本代表監督』であるドイツ人指導者=故デットマール・クラマー(※)氏も、1991~1992年に韓国の五輪代表を総監督として指揮しています。
※クラマー氏の日本での肩書はあくまで「コーチ」。日本での実際の指導としては1964年の東京五輪でアルゼンチンなどを破ってのベスト8。その後の1968年のメキシコ五輪の銅メダルへ繋げました。日本を離れてからもバイエルン・ミュンヘンの監督として1975.1976年の欧州チャンピオンズカップ(現チャンピオンズリーグ)を連覇達成。
ドイツは世界的に観れば圧倒的に弱者であるアジアサッカーの発展に寄与した国で、日本や韓国だけでなく、イランなどもそれに該当する国です。日本が初めてW杯出場を決めたフランス大会の最終予選・第3代表決定戦で、「ジョホールバルの奇跡」の対戦相手であったイランには、アリ・ダエイ選手とホダダ・アジジ選手の「アジア最強2トップ」がおり、その2人並みの得点力を持つMFカリム・バゲリ選手も含めて彼等3選手がドイツで活躍していました。彼等の名前を見ただけでも「負けるんじゃないか?」と思った日本のサッカーファンは多かったのでは?だからこそ”奇跡”なわけです。
イランはジョホールバルで日本に敗れたものの、大陸間プレーオフで豪州を倒して日本同様にフランスW杯出場を果たすと、その躍進ぶりからさらにメフディ・マハダビキア選手やバヒド・ハシュミアン選手、アリ・カリミ選手がドイツに引き抜かれて長期に渡ってプレーし、その後はジャパド・ネコウナム選手が日本人だけでなく、”アジア人にとっての鬼門”であるスペインでも主力として長年プレーする事にもなりました。
ソン・フンミン選手の欧州での活躍ぶりや「アジア人最高額」は言わば、日本を含めたアジアサッカーに進むべき道を照らし続けてくれたドイツとの共同作業が生んだ努力と工夫の結晶です。それを「韓国人だから」「高額過ぎる」などと揶揄するのは止めて、素直に彼を応援しましょう。
プレミアリーグでは香川選手が失敗に終わってアジア人選手の評価が落ちつつあった中、昨季はレスター・シティで岡崎慎司選手が奇跡のリーグ優勝に貢献し、今季はトッテナムでソン・フンミン選手が絶好調。後続のアジア人アタッカーや、ブンデスリーガの評価も高まるでしょう。
果たして、ソン・フンミン選手は日本の大人気アニメ『ドラゴンボールZ』の主人公”孫悟空”を越える”ソン”になれるのでしょうか?彼と同じ24歳でポジションも同じである宇佐美貴史選手(現アウクスブルク)や武藤嘉紀選手(現マインツ/ドイツ)も負けてはいられませんね!
お詫びと訂正
※当初、記事内に「高校年代を日本の東北高校で過ごしています。」と記載しておりましたが、正しくは「韓国の東北高校」でございました。
読者の皆様ならびに関係者の皆様にご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。
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