ポゼッション=攻撃的、カウンター=守備的は本当か?~グアルディオラとモウリーニョが率いたスペイン2強の例
ポゼッション至上主義のグアルディオラ監督(右)、カウンター志向の勝負強いチームを作るモウリーニョ監督(左)(写真は先週末のマンチェスター・ダービー。試合はアウェイのシティが1-2で勝利。)by The Sun
攻撃的か守備的か?相手があるスポーツであるサッカーでは、その見極めは曖昧なものです。
特に「攻撃的なパスサッカー」という表現に筆者は極度の違和感を抱いております。
パスサッカーとは、まずボールを支配する事に特徴があるので、縦パスよりも横パスやバックパスの方が絶対的に多くなります。そのため、パスの種類は「守備的」になるため、パスサッカーに攻撃的という概念はないのではないか?とも考えられます。
逆にカウンター攻撃は3本以内のパスや10秒以内でのフィニッシュへの持ち込みが一般的であるため、そのパスの種類の多くは縦方向に出る鋭く「攻撃的」なパスになります。
また、得点が多く生まれる”撃ち合い”の試合とは、カウンター攻撃の応酬が多いのが特徴です。カウンター狙いはけっして守備的ではありません。
バルセロナ=「MFのサッカー」、レアル・マドリー=「FWのサッカー」
グアルディオラ監督の就任初年度だった2008-2009シーズンに3冠を達成したバルセロナ。ボール支配による美しく隙のない強さを披露した完璧なチームだった。by SOCCER DIGEST WEB
「パスサッカー」や「ポゼッションサッカー」、「攻撃サッカー」という言葉が頻繁に使われ、それがトレンドとなって全世界が目指すべきサッカーのスタイルと提唱され始めたのは、2008年にスペイン代表が欧州選手権を制覇し、そのスペインリーグ所属のバルセロナが2009年に国内リーグと国内カップ、欧州チャンピオンズリーグの3冠を達成したのがキッカケです。
攻撃サッカーの代名詞となったバルセロナに対して、宿敵のレアル・マドリーは守備の堅いチーム作りで結果を残して来たジョゼ・モウリーニョ監督(現マンチェスター・ユナイテッド/イングランド)を2010年に招聘。カウンター志向の勝負強いチームを作り、見事に2012年にバルセロナからリーグ王者を奪還しました。
しかし、実はリーグ戦における得点数と失点数を見れば非常に興味深い数字が出ています。(以下表)
直近8季のスペイン2強のリーグ戦得失点数
バルセロナは2009年の3冠達成以降の8シーズンで6回の国内リーグ優勝を成し遂げていますが、シーズン最多得点チームとなったのは僅かに3回しかなく、逆にレアル・マドリーが5回も最多得点となっています。
さらに面白いのは、攻撃的なはずのバルセロナがシーズン最少失点チームとなったのが5回もあるのに対して、結果最優先主義のレアル・マドリーが最少失点となった事が1度もないのです。(最少失点の残り3回はアトレティコ・マドリー)
クリスティアーノ・ロナウド選手やカリム・ベンゼマ選手、ゴンサロ・イグアイン選手(現・ユヴェントス/イタリア)、ギャレス・ベイル選手(2013年より加入)というカウンターでこそ最大限活きるスピードを持ち味とした個人技で打開できるFWが揃っているため、レアル・マドリーの得点が多いのはイメージが付きやすいでしょうが、バルセロナが最少失点の常連だったのは意外と思う人が多いかもしれません。
特に今季からイングランドのマンチェスター・シティの監督に就任し、新天地でも攻撃サッカーに対する執拗な拘りを見せるジョゼップ・グアルディオラ監督が指揮した2008~2012年は全て最少失点。逆に最多得点は初年度の1度のみ。グアルディオラ監督のバルセロナは得点数ではモウリーニョ監督のレアル・マドリーより少なく、逆にモウリーニョ監督のレアル・マドリーもグアルディオラ監督のバルセロナより失点が多い。イメージとは相反する数字が残っています。
スペインではパスワークを主体とする攻撃を得意とするバルセロナは「MFのサッカー」、FWの個人技を活かした攻撃を武器とするレアル・マドリーは「FWのサッカー」と言われる事があります。ポゼッションかカウンターかで攻撃的か守備的なのかを決めるのではなく、どちらも選手の特徴に合わせた攻撃スタイルの1つなのです。
現在のバルセロナは「FWのサッカー」~それでもクラブに根付く伝統あり
2014-2015シーズンに再び3冠を達成したバルセロナだが、そのサッカーは以前とは異なったスタイルだった。by ロイター
バルセロナは2013年夏にブラジル代表のエースFWネイマール選手、2014年夏にウルグアイ代表のエースFWルイス・スアレス選手を獲得。アルゼンチン代表のエースFWリオネル・メッシ選手と合わせた南米の強豪国のエースFWが3人揃い、彼等の個人技を活かした攻撃パターンが多くなっています。ちなみに、スアレス選手が加入した2014年の夏までは、チリ代表のエースFWアレクシス・サンチェス選手(現アーセナル/イングランド)が在籍していました。
2009年に続き、2015年にも3冠を達成したバルセロナにあって、南米3トップは公式戦合計122得点を記録。ただ、「MFのサッカー」であった時代にはスペイン代表MFアンドレス・イニエスタ選手がハーフウェイライン付近でドリブルをする事などありませんでした。そのようなプレーを見ようものなら、「今日はボールが回らないんだな。調子悪いな」となっていたのが、今ではそれが日常になっています。それだけカウンター攻撃が多く、バルセロナも「FWのサッカー」に切り替わったと言えます。
そして、パスサッカーの象徴である元スペイン代表MFシャビ・エルナンデス選手がその3冠を達成したチームの中でベンチに座っている時間が長く、2015年の夏に退団したのも時代の流れと共に大幅なスタイル変更があった裏付けになるかもしれません。
ただし、そんな現在のバルセロナでも「守備固め要員」のように、残り20分前後でシャビ選手のようなパス能力の高いMFを投入し、ボール支配率を上げて相手にシュートを撃たせないように守り切るような戦略が非常に多く見受けられます。「相手にボールを渡さない」、これこそが最少失点の常連であるバルセロナの守備の鉄則なのです。
「何かを得るためには何かを捨てる覚悟」が必要であり、バルセロナにも相当な覚悟があったと言えます。それでいて、クラブ伝統のポゼッションは守り切りたい時に活かすという部分で生きています。これこそ、クラブに根付いた伝統的なスタイルなのかもしれません。
そして、「ポゼッション=攻撃的、カウンター=守備的」ではないのです。
バルセロナ時代の選手・グアルディオラ、通訳兼アシスタントコーチのモウリーニョ。親睦を深めていたはずの2人も今や犬猿の仲。ただ、おそらく住所は近いだけにスーパーでバッタリ遭遇している仲良し・・・なわけないですよね?by Daily Mail Online
奇しくも同じマンチェスターの地で新たなチームを率い、先週末にはダービーも戦ったグアルディオラ監督とモウリーニョ監督。ポゼッションによる失点数の削減や、攻撃的なカウンターというような固定概念を越えたサッカーの楽しみ方を教えてくれそうな両チームと両監督に注目です!
バルセロナ監督時代のグアルディオラを挟むモウリーニョとイブラヒモビッチ(当時バルセロナ、現マン・ユナイテッドFW)。説明不要の因縁が強烈な3ショット。by Daily Mail Online