リオ五輪6ゴールで得点王のドイツMFセルジュ・グナブリーとは?アーセナルが発掘した逸材の復活劇!
大会開幕から4試合連続の合計6得点を挙げたドイツMFグナブリー(左)。ドリブルからのこの鋭い切り返しが一番の魅力だ。by METRO
リオディジャネイロ五輪サッカーの決勝は開催国である「サッカー王国」ブラジルと、2年前に同じブラジルの地で”兄上たち”がW杯を制している「現・世界王者」ドイツの決勝カードとなりました。
戦前から選手選考で万全の態勢がとれない国々が多かった中、決勝に進出して来た両者はオーバーエイジ枠も含めて戦力的に抜けており、必然の結果だと捉えられました。
ただ、ブラジルもドイツも開幕から2試合連続で引き分けに終わり、けして順調に勝ち進んで来たわけでもありません。ブラジルはグループリーグ第3戦・デンマーク戦から先発メンバー2選手の変更とシステムの微修正。ドイツも初戦で主将のMFレオン・ゴレツカ選手が負傷し、その後にチームを離脱して帰国。やり繰りを強いられていました。
その上でブラジルもドイツもグループリーグ最終節から準々決勝、準決勝と3試合連続で完封勝利。準備期間が少ない事や、若い選手が多いのは五輪の特徴。その利点を活かした両チームは大会を通して成長し、過密日程も苦にせずに強さを見せつける試合を披露し、堂々と決勝まで勝ち残って来ました。
そんな今大会の決勝はブラジルが1-1からのPK戦の末に勝利し、悲願の初優勝で幕を閉じました。
優勝したブラジルの主将FWネイマールは決勝T後に3試合連続の計4得点。ただ、彼でさえ大会当初は苦しんだ。by FOX Sports
ただ、優勝したブラジルでも世界最高峰のFWであるネイマール選手ですら4試合目まで得点を挙げられずに苦しむ中、大会を通して眩い光を放った選手がいます。
準優勝したドイツで背番号17をつけていた21歳のMFセルジュ・グナブリー選手です。(Gnabryは、日本では「ニャブリ」や「ナブリ」と各メディアで表記・発音が異なりますが、ここでは「グナブリー」とします。)
17歳でアーセナルでデビューした逸材MFが、リオ五輪4戦連続の計6ゴールで得点王
グナブリーを17歳で抜擢したヴェンゲル監督(前列右)。日本の浅野の活躍と共に、若手の発掘・育成の手腕が際立つ。by 101 Great Goals
グナブリー選手は開幕から4試合連続得点で得点王となる通算6ゴール。FWではない選手がこの数字を記録しているのは特筆すべき事です。
下部年代のドイツ代表としてもプレーした来たグナブリー選手ですが、彼は2011年に16歳になる頃にイングランドの名門アーセナルにトライアルを経て”移籍”を果たした今大会のドイツでは唯一の「海外組」です。
アーセナルへ加入してから僅か1年後には、イングランド代表FWテオ・ウォルコット選手の契約延長問題から来る移籍騒動の際、指揮を執るアーセン・ヴェンゲル監督からは、「ウォルコットが移籍する事になっても心配はない。グナブリーをトップチームに昇格させれば良いんだ」と、名指しで期待を込められていたヤング・タレントで、当時はまだ17歳になったばかりでした。
結局、ウォルコット選手はアーセナルに残留しましたが、グナブリー選手はそのシーズンに17歳にしてイングランド・プレミアリーグや欧州チャンピオンズリーグでもデビューしてトップチームに定着。ドイツの強豪シャルケ相手にも堂々たるプレーを見せ、アーセナル自慢の2列目のアタッカー陣の中でも自身の存在をアピール。その活躍にはドイツ代表のヨアキム・レーヴ監督がわざわざロンドンまで視察に訪れる事も複数回ありました。
2列目でプレーするグナブリー選手の特徴は、ドリブル・パス・シュート全てに非凡なセンスを備えるのはもちろん、バイタルエリアの狭いスペースを見つけてパスを呼び込み、そこで素早く正確なトラップ&ターンする能力に長けています。そこからさらにドリブルで仕掛けたり、ごぼう抜きしてからのスルーパス、自らのフィニッシュで観客を魅了させられる選手です。そして、欧米人に多いようなスピードはあっても直線的な速さだけでなく、ドリブルでの切り返しを含めた瞬発力や敏捷性といった日本人にも通じるような速さに優れています。その敏捷性を支える下半身の強さもあり、フィジカル的な強さにも対応可能で、プレー判断も早い選択ができます。17歳でデビューした頃から、攻撃面ではすでに成熟した選手でした。
長期離脱や守備意識の低さを問われて実績を残せず、”元・逸材”に
レンタル先のWBAではピューリス監督から戦力外を通告され、半年でリーグ出場は僅か1試合に終わる。by Zimbio
ただ、鮮烈なデビュー当時から負傷が多く、すでに怪我による長期離脱も経験。その間にアーセナルの2列目にはドイツ代表の司令塔MFメスト・エジル選手や、チリ代表の絶対的エースFWアレクシス・サンチェス選手などのビッグネームが加入。昨季戦列に復帰したグナブリー選手にはポジションどころかトップチームでの居場所が見当たりませんでした。
そのため、昨季は意を決してレンタル移籍を選択したグナブリー選手ですが、レンタル先のウエスト・ブロムウィッチ・アルビオン(以下、WBA)ではトニー・ピューリス監督に、「プレミアリーグで通用するレベルにない。」と公の場で非難されてしまい、1年間のレンタル移籍も半年で打ち切りに。
就任20年を越えるヴェンゲル監督の下で一貫した攻撃サッカーを展開するアーセナルと、守備重視で攻撃はFWにロングボールを放り込むようなWBAのスタイルでは大きな違いがあったのも事実なのですが、グナブリー選手にも大きな弱点がありました。
生まれ持った攻撃の才能で称賛される若手にありがちな、守備意識が問題視されていました。攻撃する時間の長いアーセナルではそれが表面化する事はなく、逆に運動量は多いために積極性を評価されていました。ただ、守備時のポジショニングや周囲との連動といった基本原則の理解が怪しいため、そこをピューリス監督に指摘された模様。結局、WBAでのリーグ戦出場は僅か1試合に限られました。
それどころかアーセナルでデビューした頃からも、自身が10代だった事や各国代表で主軸を担う選手が数多く在籍していたため、グナブリー選手は21歳となった今までのプロキャリアでレギュラーを担った事はありません。
主将の離脱から機会を掴み、圧倒的な存在感を放つ~アーセナルでも観たいグナブリーの活躍!
「あと1勝で初優勝」のドイツを牽引するグナブリー。『ボールを持てば何かを起こす!』観ていて楽しい選手であるのは間違いない!by Squawka News
そのため、今回のリオ五輪でも当初はグナブリー選手にポジションはありませんでした。ドイツのブンデスリーガ1部の強豪で主力を張るゴレツカ選手やマックス・マイヤー選手、ユリアン・ブラント選手に、ボランチにはスヴェン&ラースのベンダー選手兄弟をオーバーエイジ枠で招集された中盤は、実績を備えた実力者が勢揃いしていたのです。
それでも初戦の前半でゴレツカ選手が負傷してチームに動揺が生まれた中で急遽出場すると、前回大会で金メダルを獲得したメキシコ相手に1得点。続く、前回大会銅メダルの韓国相手にも終了間際に直接フリーキックを蹴り込むなど2得点。ポジションを掴むどころか、それ以降も多くの得点に絡み、ドイツ代表を越えて「大会の顔」となる大活躍を続けました。
アーセナルファンでもある筆者の見識から言わせてもらうと、今大会のグナブリー選手に変化が見られるのは1つ。それは守備意識ではなく、攻撃時に相手DFラインの裏を狙う意識。これまでは相手DFの間など足下でパスを受けたがる傾向が強かったため、相手チームに失点の恐怖を与えきれず、自身の得点もイメージより相当少なかったグナブリー選手。
それが味方のスルーパスを呼び込むように裏に抜け出す動きを多用する事で、相手が裏やシュートを警戒。必然的に動き直して足下にパスをもらえる機会も増えた事が、彼の特徴を余す事なく披露できた要因だと考えられます。
ボールを持たせれば世界屈指のレベルが期待できる。それゆえに実績が乏しくても今大会のメンバーに招集されたはず。それだけに、パスの受け方に工夫を見出したグナブリー選手。守備意識は未だに低い傾向があるのでピューリス監督には批判されるでしょうが、圧倒的な結果で示す事で周囲を認めさせるのも一流選手の証明です。今大会のグナブリー選手には確実にそれがありました。
リオ五輪決勝の相手ブラジルは今大会無失点を続けており、グナブリー選手がその堅牢を切り崩せるかに注目が集まりました。しかし、MFマイヤー選手が同点弾を挙げてブラジルの無失点記録を止めたものの、左サイドMFとして延長戦含めて120分フル出場したグナブリー選手には、対面したブラジルの右サイドバックだけでなく、得点源の1人でもある右サイドMFのガブリエル・バルボサ選手までがグナブリー選手を警戒する「グナブリー・シフト」となるダブルマークに遭って沈黙。それだけ警戒される存在となっており、それでも時よりスピードを活かした縦へのドリブル突破を見せていたのですが、最後まで得点を生み出す事はできませんでした。
そんなグナブリー選手が所属するアーセナルはリオ決勝同日にプレミアリーグの第2節で王者レスター・シティと対戦。スコアレスドローで終えて開幕2戦未勝利に終わっています。
グナブリー選手のアーセナルでの活躍を観たいと思います!