昨季優勝チームとしての面影がないレスター・シティ 泥沼のプレミアリーグでの状況とCLでのミラクルの可能性
昨季のプレミアリーグで奇跡の優勝チームとなり、世界を熱狂の渦へと誘った“ミラクル・レスター”。しかし、今季は25節を終えた時点で17位に沈み、5勝6分14敗で勝点わずか21と大苦戦を強いられている。ところが、CLでは昨季からの勢いを維持したまま、4勝1分1敗と好成績を収めてグループリーグを突破しラウンド16入りを果たした。
なぜプレミア・リーグでは昨季の覇者としてのチーム力を失ってしまったのか?そしてCLでは昨季の快進撃を続け、またも奇跡を起こすことができるのか?
この2つのアンビバレンスな状況を、いくつかのトピックに分けて紐解いてみましょう。
①クラウディオ・ラ二エリ監督の采配の意図が明確でない
レスターの基本的なフォーメーションシステムは4-4-2。昨季のチームの快進撃にこのフォーメーションはとてもうまくハマっていた。このフォーメーションで有名なチームにはディエゴ・シメオネが指揮を司る現アトレティコ・マドリードやアリゴ・サッキ時代のACミランがあるが、この4-4-2の特徴は各ポジションの位置関係が非常にバランスがとれているので、攻守のスイッチの切り替えを迅速に行ってカウンター戦術をするのに適しているとうことだ。
前線から最終ラインまでコンパクトに保ちやすく、プレスをかけやすいこと。奪ったボールを突破力のある2トップに一気に預ける。ポゼッションして、引いた相手を崩すには、連携を組みやすいSH、SBからのクロスがメインになる。といった利点があるが、4-4-2は2ライン間を作り、敵チームの中央突破を阻止することがメインの守備になるので、サイド攻撃には弱く屈強で長身のCBを配置することが絶対条件になる。レスターであればモーガンとフートがそれに当たるだろう。
シンプルでわかりやすいフォーメーションシステムで、選手たちも自分がどう動けばいいのかゾーンで判断すればいいので理解しやすく、戦術浸透度は高いシステムといえるだろう。そして4-4-2はすべてのシステムの基本と考えられる並びなので、試合中に別の可変フォーメーションにシステム変更したり、戻したりといったことも流れの中でできる。
しかしというか、当然のことながら昨季の優勝チームの戦術は各チームに分析され対策を練られる。今期は他のチームは序盤から下手に攻めてボールを失うことを避け、守備的な布陣からゲームに入る場面が増えている。そしてカウンターの要であるバーディとマフレズのスピーディな動きも完全に敵チームに対応されてしまっている。これは、ラ二エリ監督が明確なオプションを講じることができずに、ここまでずるずると昨季の戦術できてしまったことの結果といえるだろう。また、3トップにしたり、5バックにしたりと、意図のわからない采配も増えてしまいチームとしてまとまりがなくなりつつある。相手を混乱させ陥れてプレッシングを仕掛けカウンターで主導権を握ることがレスターの良さだったのに、今季は自分たちが敵チームに混乱させられて、各選手の本来の持ち味を生かせなくなり、チームとして機能不全に陥っているのだ。ラ二エリ監督のティンカーマン(腕の悪い修理屋の意味)」ぶりが完全に裏目に出てしまっている。
②エンゴロ・カンテの放出と穴埋め選手の不在
by wikipedia
誰がどう判断してもエンゴロ・カンテの放出はレスターにとって失敗だった。レスターのプレミアリーグ優勝に大きく貢献し、昨シーズンの守備の要であり屋台骨だったのがカンテだ。その豊富な運動量とボール奪取能力は替えの利かない存在だった。ラ二エリ監督はどんな方法を使ってでもカンテの移籍を阻止しなくてはならなかった。
その守備要員としての凄さはもちろんデータにも表れている。英メディア『Sky Sports』が昨シーズン途中の2016年2月に公開したデータによると、昨シーズンのプレミアリーグにおいて、カンテはインターセプト回数、タックル回数、タックル成功回数の3部門で1位の記録を残しているのだ。
カンテはリーグ戦全26試合に出場した段階で、109回のパスカットに成功。これは1試合平均で4.19回となる。タックルに関しても総数108回、成功数79回ともにリーグ最高値を記録していて、その成功率は73パーセントを超える。
広範囲のスペースをカバーし、敵チームのカウンターアタックなどの攻撃の芽を摘み、カンテを起点としたショートカウンターをして、前線のバーディやマハレズやウジョアにボールを運ぶのが昨シーズンのレスターの強みであった。ところが、カンテが抜けたことにより、今季は中盤でボールを奪取できなくなり、自陣深くまで押し込まれずるずるとラインが下がるような場面が増えてしまった。
そしてこのカンテ・ロスともいえるチーム状況を埋めるような補強が結果的に失敗してしまったのも今季の不調にかなり響いてしまっている。ナンパリス・メンディやダニエル・アマーティなどが加入したものの、昨季のカンテほどの仕事はこなせておらず、もう一人の中盤のダイナモであるドリンクウォーターの役割が増えてしまった印象がある。チームとしては多くの主力選手の慰留に成功したものの、カンテ一人の抜けた穴はあまりにも大きかったようだ。
次ページ:③FW陣がことごとく絶不調。新加入のスリマニもダメ。岡崎の真価は発揮されるのか?
③FW陣がことごとく絶不調。新加入のスリマニもダメ。岡崎の真価は発揮されるのか?
by fourfourtwo
レスターのFWの選手陣がことごとく得点をとれてない。第25節を終えてのチーム内得点ランキングはヴァーディーとスリマニが1位タイの5得点。続く2位のマフレズが3得点とあまりにも低調な記録のままシーズン終盤を迎えようとしている。
新加入のスリマニはこれでもまだ、今のレスターのチーム状況を考えれば結果としては残せている方だ。問題はヴァーディとマハレズが極度の不振状態に陥ってしまっていることだろう。
ヴァーディーは昨シーズンリーグ戦35試合に出場し24得点を挙げ、プレミアリーグ新記録となる11試合連続ゴールを達成したり、年間最優秀選手賞を受賞するなど奇跡の優勝の立役者となったのだが、今季はリーグ戦22試合に出場し5得点しか挙げることができておらず、大きく得点数を減らしている。シーズンを通して2桁ゴールには届かずに終わってしまう可能性も出てきた。
2年目のジンクスともいえるこの状況は数値にも如実に表れている。英サッカー専門メディア「Whoscored.com」によると、昨季に比べて1試合あたりのシュート数が3.2→1.2、シュート決定率が20.9%→12.5%、カウンターアタックでのシュート数が12→0、1試合あたりのドリブル数が1.1→0.3と、ほとんど相手チームにFWとしての仕事をさせてもらえていないということがわかる。
ヴァーディーを中心とした高速カウンターがレスターの攻撃のストロングポイントだったのだが、カンテ不在による中盤のカットからの前線への配給が少なくなったことと、囮役としてヴァーディのために影の動きをしていた岡崎の起用が、スリマニの加入によって減ってしまったことは原因としてあるだろうが、相手チームもレスターの戦術研究を相当しているのでこうなってしまったことは仕方がないだろう。マハレズもおそらくは同様の原因によって得点を挙げられなくなってしまっている。
筆者は岡崎の存在がレスターにとって終盤戦でかなり大きな意味を持つと推測する。岡崎がいると相手チームのボランチやセンターバックのビルドアップのスペースを潰すことができ、最前線での守備ができる。敵からの縦パスを切ることができるのだ。今季の試合を見ると、その貢献度は昨季からまったく落ちておらず、トップ下をこなしたり、CLで素晴らしいゴールを決めたりとチーム内でフレッシュな状態を保てているのは岡崎だけと言っても過言ではないだろう。もう少し起用される機会が増えてくればチーム状況を変えるキーマンそして前線と中盤のリンクマンとしての活躍ができるかもしれない。
プレミアリーグでは降格圏すれすれの17位と低迷。しかしチャンピオンズリーグでは16強入り。この2つの成績が示す因果関係とは?
by rte.ie
プレミアリーグでは昨季のレスターはあくまで伏兵であり、どんな策があるのか未知数な挑戦者だった。ところが、奇跡の優勝を果たしてしまった次のシーズンである今季は前年度の王者として、国内の対戦相手と戦わなければならなくなった。レスターの戦術や選手の好守の動きのパターンは分析され、必要以上に攻めてこずボールロストを回避して、露骨なカウンター狙いをするチームが増えた。よって苦戦は必然の結果だったのだろう。
そして、昨季はオフだった水曜日にCLの試合が入り、選手のローテーションが激しくなってしまったことも低迷の原因の1つであろう。CLではクジ運にも恵まれて、レスターとそれほどチーム力が離れていないチームとの試合を1つもとりこぼすことなく、6試合4勝1分1敗で勝ち進むことに成功しグループステージ首位通過を決めた。
つまり、CLでは昨季からの勢いをそのまま維持できるような、主力の固定メンバーでフルスロットルで戦うことができたのだが、国内リーグではバーディやマハレズを休ませて消耗させないようにし、週替わりで先発をいじる。
よってリーグではそれら主力を休ませ、前線のスリマニ、ムサ、岡崎という三者三様のFWの交代人選により周囲との連携をそのたびに微調整しなければならず、ラ二エリの采配に選手達が混乱をしているのだ。
CLで敗退すれば邪念と疲労がなくなり、プレミアの試合のみに集中して取り組むことができ、チームとしてのシンプルな方向性も見えてくるだろうが、ラウンド16まで勝ち進んでしまったため、降格のリスクは高くなってしまった。もしかすると、史上初めて欧州制覇と国内リーグ2部降格を同時に経験するチームになる可能性もある。そのジレンマとどう付き合っていくかは、ラ二エリ監督の采配が鍵となるだろう。