Shooty

日本代表FW浅野拓磨の新たな指揮官~アーセナルで20年を越える長期政権を築くヴェンゲル監督とは?

hirobrown

2016/07/20 20:15

2016/07/21 08:07

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

NEWS

01_ヴェンゲル監督
by SOCCER KING Opinion

7月3日にサンフレッチェ広島からイングランドの名門クラブ=アーセナルに完全移籍する事が発表された日本代表FW浅野拓磨選手。

その浅野選手の移籍先であるアーセナルが如何に強豪クラブであるか?は、フランス代表にDFローラン・コシールニー選手、FWオリヴィエ・ジルー選手、ドイツ代表にMFメスート・エジル選手、ウェールズ代表にMFアーロン・ラムジー選手と、先日ポルトガルの優勝で幕を閉じたEURO2016フランス大会のベスト4に残った3カ国に合計4選手を輩出している点からも証明されています。

そして、そんなアーセナルで20年を越える長期政権を築いているアーセン・ヴェンゲル監督もまた、世界屈指の指揮官です。

就任20年越えのヴェンゲル監督~9個の主要タイトル獲得&リーグ4位以上を維持

ヴェンゲル監督就任後のアーセナルの成績
ヴェンゲル監督就任後のアーセナルの成績

1996年10月、日本のJリーグ・名古屋グランパス(当時は名古屋グランパスエイト)で指揮を執っていたフランス人監督が、アーセナルの指揮官として引き抜かれて、すでに20年以上が経過しました。

ヴェンゲル監督は就任2年目でイングランド・プレミアリーグとFAカップを制して2冠を達成すると、6年目にも再びの2冠。そこからは4シーズン連続で主要タイトルを獲得。

中でも就任8年目で迎えた2003-2004シーズンは、全38試合を26勝12分の無敗でリーグ優勝を成し遂げ、”インビンシブルズ”(無敵)と名付けられた魅惑のチームを作り上げました。イングランドのトップリーグで無敗優勝を達成したのは1888-1889シーズンのプレストン・ノースエンド以来の115年ぶりで、その1888-1889シーズンはその開幕元年。しかも当時はリーグ戦が僅か11試合の無敗優勝だったため、実質は史上唯一無二の偉業だったのです。

その後、8年連続の無冠時代が訪れたものの、2013-2014シーズンのFAカップで9年ぶりの主要タイトル獲得に導くと、翌年にも同大会を連覇。監督としてのFAカップ優勝回数では元マンチェスター・ユナイテッドのサー・アレックス・ファーガソン監督の5回をも上回って歴代最多タイの6回となっています。(尚、同優勝回数トップタイは戦前の記録であるジョージ・ラムゼイ監督。)

途中就任だった初年度も含めての就任20シーズンで3度のプレミアリーグと6度のFAカップの制覇で合計9つの主要タイトル獲得。しかし、欧州チャンピオンズリーグ(以下、CL)の優勝がなく、現在はリーグ優勝からも12年も遠ざかっています。

タイトル獲得数としては少し物足りなく感じる部分もありますが、この20シーズン、ヴェンゲル監督に率いられたアーセナルはリーグ戦で1度もCLの出場資格条件となる4位以下になった事がなく、19年連続でCLに出場し続けています。

これがどれほど偉大な記録なのか?それはレスター・シティがサプライズ優勝を果たした昨季、マンチェスター・ユナイテッドは5位、リヴァプールが8位、チェルシーに至っては10位と低迷。10年ほど前にはアーセナルと共に「ビッグ4」と呼ばれ、そのうちの3チームをCLのベスト4に送り込む事が頻繁化していた一時代からは考えられませんが、アーセナルとヴェンゲル監督はその地位を死守し続けています。

健全経営と若手の発掘・育成、攻撃サッカーを貫くロマンチスト

02_エミレーツ・スタジアム
by SOCCER KING Opinion

ただ、2005年にFAカップを制してからは8年連続の無冠、リーグに限っては現在も12年連続でタイトルを逃し続けているのも事実です。しかし、それには理由があります。

2006年に完成した新本拠地=エミレーツ・スタジアムの建設費に約600億円から700億円を投入。その分の借入金の返済を優先させるため、ビッグネームの大型補強どころか、世界屈指のレベルにまで育て上げた若手選手がピークの年齢に差し掛かる時期に移籍してしまうなどの事態に陥っていました。

2007年にクラブ史上最多得点記録を持つフランス代表のティエリー・アンリ元選手、2009年にはトーゴ代表のエマニュエル・アデバイヨル選手、2012年にはロビン・ファン・ペルシー選手と、5年間に3人ものエースFWが国内外のビッグクラブへ移籍していきました。2011年にはスペイン代表MFセスク・ファブレガス選手とフランス代表MFサミル・ナスリ選手のW司令塔が同時に移籍していく苦境もありました。

それでもヴェンゲル監督が率いるアーセナルは攻撃サッカーを貫いた上でリーグ戦では4位以内をキープし、CLでもベスト16以上に進出しています。毎年CLに出場し、ある一定のラウンドにまでは進出する事で、莫大なテレビ放映権収入を獲得し、経営面の安定にも貢献しているのです。

一般的に人件費が7割を越える事が普通だった放漫経営を善とするプレミアリーグを始めとする欧州のトップクラブ勢の中、健全経営を貫く事を批判されるクラブなどアーセナル以外にはありえません。

そして、20~25年計画で返済予定だった借入金も僅か9年で完済のメドがつき、昨年のシーズンインを迎える頃、「リーグ優勝をしていた時期よりも、戦力的に十分とは言えない中でトップ4を維持する事の方がプレッシャーを感じた」と吐露したヴェンゲル監督。

その上で、「やっと我々は誰も放出せずに世界中の有力選手を獲得できるようになった」という監督の域を超えて社長のような言葉も言い放ちました。

実際、移籍市場での選手獲得や所属選手の年俸、契約延長交渉に携わる「全権監督」というポストがイングランドには根付いていますが、チェルシーで補強不足を理由に醜態をさらし始めて2度も解任の憂き目にあったジョゼ・モウリーニョ監督のように、予算は求めても資金繰りには関与しない「全権監督」ばかり。

そんな中、ヴェンゲル監督はエミレーツスタジアム建設に伴うチーム予算の圧迫にも理解を示すどころか積極的に協力。また、新スタジアムのピッチサイズも希望通りに提案したり、日本にいた頃に独学で勉強した和食を選手食堂に取り入り、クラブハウスは上履き制にするアイデアマンです。

最近は日本代表のヴァヒッド・ハリルホジッチ監督の影響で、体脂肪率に関する質問がJリーグの記者会見でもよくあります。日本人監督が食事については語れない中、ロンドンのクラブを率いるフランス人監督が、「オヒタシやスノモノは低カロリーで多くの栄養を摂取できるんだ」と説明する姿を見習って欲しいぐらいです。

次ページ:ヴェンゲル監督とラムジーのエピソード

1 2

この記事が気に入ったら
「いいね!」しよう