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3度目のアジア制覇に向かって敵地韓国でミラクルな勝利をもぎ取った浦和レッズ

扇ガ谷 道房

2019/07/02 07:30

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2019年6月26日、蔚山文殊フットボールスタジアムは雨。一週間前にホーム埼玉スタジアム2002で蔚山現代に1対2の逆転負けを喫している浦和レッズにとって、三度目のアジア・チャンピオンになる為には絶対絶命の状態で迎えた2019ACLノックアウトステージラウンド16セカンドレグ。
与えられたミッションは失点せずに2点差以上で勝利すること。相手は、初戦をアウェイで勝利し、今回はホームゲームというアドバンテージを有し、しかも浦和レッズにとっては異国のアウェイで天候は雨。司令塔の柏木陽介選手は怪我で不在。好調のマルティノス選手は前監督が登録外に。スコア、ゲーム地、メンバー、天候という凡ゆる要素が完全なる逆境の中迎えた蔚山での戦いは、浦和レッズにとって須らく不利な状況でした。
可能性というのは、不可能を疑う事によって実現性が高まるもの。特に逆境のさ中にあって前向きに物事を進めるには、信じる事が全てと言っても過言ではないでしょう。しかし、それが難しい事は周知の事実。そして結果は如何に。。。
このチームは、ACLという過酷なアジアの戦いの中で、幾度と無く不可能を可能にして来た歴史を有しているのです。そしてこの夜、多くのサッカーファンが今度こそ不可能と思った戦いで、又してもミラクルな勝利を掴んだのです。
不可能を疑わなかった事。これこそが究極の勝利要因だと筆者は確信しています。3ゴールを決めて完封勝利。ミラクルとも思えるこの勝利にも、きちんと理由が存在しているのです。何故かくもアジアの戦いにおける逆境に勝利できるのか。
蔚山現代戦に臨んだ浦和レッズに着眼して考察してみました。

2019ACLノックアウトステージラウンド16ファーストレグ蔚山現代戦

 
先ずは、セカンドレグに際して逆境に立たされ原因となった、2019年6月19日の埼玉スタジアム2002における蔚山現代とのファーストレグを振り返ってみましょう。結果は、1対2で浦和レッズの敗戦でした。
  
浦和レッズのサポーターは、多くのサッカーファンの知るところですが、サッカーを良く知り、熱く、チームを鼓舞する力が高いという特徴があります。
  
その分、目の前で無様な戦いをするものなら、ゲーム後のホームゴール裏でのサポーターへのチーム挨拶では、容赦なくブーイングが飛んで来ます。浦和レッズの殆どの敗戦ゲーム後には、ホームゴール裏からの大きなブーイングが飛んでいるのが常なのです。
  
逆転負けを喫したこの晩、その様相がいつもと大きく違っていました。ブーイングどころか、自然と拍手が巻き起こり、多くのサポータから次の敵地韓国でのセカンドレグに向けた暖かい激が飛んだのです。数多くの浦和レッズのゲームを埼玉スタジアム2002で観戦している筆者にとっても、意外な光景に驚きを禁じ得なかったのです。
  
このゲームは、前半37分に青木拓矢選手からの浮き球をペナルティエリア内で受けた杉本健勇選手がヘッドで合わせて幸先良く先取点を上げますが、その5分後には蔚山現代のイ・グノ選手からのクロスにチュ・ミンギュ選手にヘディングを決められあっさり同点。
  
前半は押し気味だったにもかかわらず同点で折り返すと、後半は一転蔚山現代が攻勢をしかけ、一進一退のゲーム展開となり、残り10分を切ったところで、不用意にカウンターをくらいファン・イルス選手に逆転弾を決められ敗戦を喫したのでした。
  
ゲームは確かに逆転の敗戦でしたが、内容はというと、蔚山現代には殆ど主導権は与えていないゲームでした。シュート数を見ればそれは明らかで、蔚山現代はたったの6本、浦和レッズは16本という、3倍近い開きがあったのです。
  
では何故敗戦したのかといえば、単的に申し上げて、浦和レッズの集中力の欠如と言わざるを得ません。不用意な失点であり、防げた敗戦なのです。このチームには、癖と言うべきか、実力と言うべきか、往々にして一瞬ヌケを作ってしまう傾向があるのです。その悪い部分を的確に蔚山現代が突いたゲームだったと言えます。つまり浦和レッズは勝てたゲームだったのです。
  
もちろん、シュート数が16本もありながら得点は1点ですから、決定機を外すなど、決定力不足だったことも疑いはありません。勝てたゲームを落としたのですから、余計にサポーターのフラストレーションは溜まるゲームだった筈なのです。しかし、ブーイングが起こらなかった。ここにセカンドレグ勝利の要因の一つがあるのです。
  

背番号12・サポーターの威力

敗戦すればブーイング必須の浦和レッズのサポーターが、激を飛ばした最も大きな要因は、悪いゲームでは無かったからなのです。それこそがこのクラブのサポーターのサッカーに対する眼力と言えます。しかし、良いゲームであっても愛の鞭でブーイングする事が常の浦和レッズサポーターが、ブーイングしなかった事に大きな意味があったのです。
  
次戦はアウェイの韓国蔚山。多くのサポーターは応援に行く事が叶いません。今シーズンはJリーグ中位に留まり、大御所監督だったオリベイラ監督が交代したばかりで、三度目のアジアチャンピオンを目指すラウンド16の初戦ホームで敗戦したのですから、サポーターにとっても次戦が困難なゲームであることは自明の理だった筈です。
  
しかし、”我々は勝利を信じているぞ!蔚山まで応援に行けないが必ず勝って来いよ!”筆者には多くのサポーターのそういう意思ではないのかと感じたのです。その事は、浦和レッズの選手が最も感じたでしょう。熱く厳しいサポータが、敗戦したにもかかわらず、いつになく暖かい気持ちを投げかけたのですから。
  
「敗戦の後で、そういう後押しをしてくださるファン・サポーターのみなさんには本当に感謝したいです。また2戦目に向けて、その後押しを受けて、我々がどういうふうな取り組みをするかが大事だと思っていますので、その取り組みをもって、ファン・サポーターのみなさんの行動に、我々がいろいろなものを返していきたい、という思いを持ちました」と、大槻監督は語っています。
  
監督自らが、選手スタッフ一同が、ホーム・スタジアムのサポーターから投げかけられた意思を、正しく受け止めて、アウトプットしなければならないミッションと位置付けたのです。
  
生きるか死ぬかの戦いという事は、ノックアウトステージという名称からも明らかです。ホームとアウェイの2戦で決着をつける戦いは、ホーム・アドバンテージが大きく結果をもたらします。
  
2017年に浦和レッズが二度目のアジア・チャンピオンに輝いた時のノックアウト・ステージから決勝まで、初戦が全てアウェイ・ゲームで、ことごとく勝利する事ができませんでした。しかし、2戦目のホーム埼玉スタジアム2002のゲームでは、一転ことごとく全戦完封勝ちし、アウェイの借りをホームできっちり返しアジア・チャンピオンに返り咲きました。その要因の一つにサポーターの大応援力があった事は明らかです。
  
ACLは各国リーグが行なわれているシーズン中にスケジューリングされている為、平日の夜にゲームが設定されています。自ずと各国出場クラブ共に集客に頭を痛めているという実情があります。しかし、埼玉スタジアム2002には、平日夜であっても2万人以上のサポーターが集まり、アウェイ・チームを萎縮させる大応援が繰り広げられる、ACLきっての特筆すべきサポーターを抱えています。
  
浦和レッズのサポーターは、ちょっと怖いと思われているきらいがありますが、実は本当にサッカーをよく見て判断し、愛する我がチームの為に、12番目の選手たろうとしているのです。その意思と行動が、アジアでの数々の試練を乗り越えさせて来たのは、紛れも無い事実なのです。
  
浦和レッズは、この熱いこのサポーターあってのクラブなのです。
   

大槻組長のシナリオ

  
前任のオリベイラ監督が浦和レッズ監督に就任する直前の昨シーズン、堀監督交代後の間の暫定監督として、現大槻毅監督は浦和レッズの指揮を執り、無敗でバトンを繋ぎました。オールバックに決めた容姿から、愛を込めて”組長”とも呼ばれます。そして今回、短命に終わったオリベイラ監督の後任として正式に大槻監督は就任しました。昨シーズンの暫定監督時代から、ファースト・レグの蔚山現代戦まで無敗。神話が生まれつつありました。
  
敗戦は必ずやって来ます。ファースト・レグの蔚山現代戦が大槻監督にとって浦和レッズでの初めての敗戦になってしまいました。その事も埼玉スタジアム2002のサポーターは良く知っています。ブーイングをしなかった理由の一つに、その事も含まれていたと筆者は感じます。
  
大槻監督の最大の特徴は、選手のモチベーションを高める事にあると筆者は感じています。日々の練習、システムの構築、フォーメーション、選手選考、臨機応変な戦術と選手交代など、サッカーの監督に求められる指導力は枚挙にいとまがありません。
  
しかし、サッカーという格闘的なボール・ゲームにとって、戦意を高め、弱みを見せず、圧倒的な勝利意欲でゲームに望める環境を整え、選手を鍛え、戦いの場へ送り出す事ができる監督こそ、結果を残せる監督であると筆者は常々考えています。大槻監督という人は。筆者が考えるプロ・サッカー監督としての理想像を実践している監督と言えます。
  
ファースト・レグに敗戦し、後が無い四面楚歌な状況で、自らを奮い立たせて、チームに圧倒的な戦意を短期間で植え付けゲームに望むということは、至難の業と言えます。自らに強い信念が無ければ、選手にそれを植え付ける事などできない筈です。ですが、大槻監督という人は、この逆境の中でも、選手に強いモチベーションを植え付けているのです。
  
「1戦目と2戦目の違いで言えば、2戦目は我々のほうがピッチにしっかりと立っていて、彼らのほうが倒れる回数が多かったと思う。試合前に『そこの回数でゲームが決まるんじゃねえか』と。いろいろな戦略や作戦、戦術はあるにしても、そういったところで上回らないと勝利は持ってこられないという話をした。その戦いも今日は上回れたと思うので、非常に選手たちのパフォーマンスを誇りに思っている」
  
フォーメーションでも無く、戦術論でもない、ピッチ上で倒れていない事で選手のモチベーションを高めたのです。格闘系ボール・ゲームであるサッカーにおいて、この視点はプロアマ問わず、常に必要なことだと思うのです。プロなのですから選手個々人が監督に言われるまでも無くわかっている事だと思いますが、逆境の海外アウェイ・ゲームを前にして、最も適切な視点は何かという監督としてのイマジネーションとオリジナリティが問われた場面で、大槻監督はこういう決断をする人なのです。
  
雨の蔚山フットボールスタジアムには、観客はたったの3140人。雨の平日だったとは言え、ファースト・レグの埼玉スタジアム2002での20741人と比較すると、置かれている立場の差がおわかり頂けると思います。しかも、3140人の内約1000人の観客は、大半が日本から渡韓した浦和レッズサポーター。ホームであるにもかかわらず、蔚山現代の応援は、浦和レッズサポーターの応援にかき消されていたのです。
  
結果、チームは奮い立ち、圧倒的に攻め続け、雨の蔚山で0対3の完封勝利。ミラクルな勝利に見えがちですが、サポーター、大槻監督の想いは、ゲーム結果として結実したのです。そして何よりも、褒め称えなければならないのは、逆境をものともせずに戦った戦士たちです。

決定的要素は選手のモチベーション

  
ファースト・レグで先制ゴールを決めたのは、今期セレッソ大阪から移籍したFW杉本健勇選手でした。ホームで幸先良く先制ゴールを決めたにも関わらず、勝利に結びつけることができなかった事は、忸怩たる想いだったことが推測できます。
  
後が無い状況になったファースト・レグ後の杉本選手のインタビューは、淡々としながらも決して負けないという強い意志を感じるものでした。
  
「相手のホームなのでどういったやり方で来るのか分からないですけど、どんな状況になっても試合中に対応することが重要だと思います。勝てると思います。勝つだけではダメで、2-0で勝たなければいけないので、失点してしまうと厳しい状況になるのでしっかり守備もしつつ進みたいなと思います」
  
セカンド・レグの決勝点となるエヴェルトン選手の3点目のゴールは、杉本選手のヘディング・アシストから生まれたゴールでした。
  
セカンド・レグ前日の会見で、大槻監督と共に蔚山で公式記者会見に臨んだ興梠慎三選手からも、勝利に対する強い意志が感じられました。
  
「2017年に僕たちがACLを優勝したときも、このような厳しい状況の中、それを乗り越えて優勝しました。だからこそこの厳しい状況の中、レッズが逆転して勝つということは可能だと思うし、それを乗り越えないとタイトルというものも獲れないと思いますので、明日の試合で重要なのはもちろん一人ひとりがいつも以上にハードワークをして球際も戦い、数少ないチャンスかもしれないですけどそれをしっかり決めきる、そして失点をしない、そういった細かいところをしっかりして、相手の得点もゼロに抑えて勝つことで次のステージに進めるということもあります。心理状態としては自分たちの方が絶対、1点取れたらもちろんそうですけど、相手も多分焦ってくると思いますし、そこが自分たちのチャンスだと思いますので、早い時間帯に1点取ることが大切だと思います」
  
セカンド・レグでの3ゴールの内、2ゴールを興梠選手が決めました。余り知られていませんが、ACL日本人選手最多得点をずっと興梠選手が更新し続けています。これで通算得点は23にまで伸びたのです。
  
2年前のACLで、アウェイの厳しい戦いで勝ち点を取り損ねながら、ことごとくホームで勝ち点を取り返し優勝した経験を、現在も多くの選手が経験し記憶しています。ACLにおける敗戦の糧、コンディション調整、食事、移動と休養、モチベーションの維持、勝利の美酒等、ACL常連の浦和レッズには、選手以外の全てのスタッフを含めた様々な経験値と共に、二度のアジア・チャンピオンというプライドが備わっているのです。
  
二人のFW選手のコメントからもお分かりの様に、最後は選手自身が、強い気持ちで望み、自分たちの力を信じて、力の限り戦ったのです。
  
サポーター、監督、選手、この三位一体が、ミラクルに思える大勝利をもたらしたのです。ミラクルに見えるかもしれませんが、必然の結果だったのです。
    

2017年アジアチャンピオンズリーグ制覇の時は、ノックアウトステージから決勝まで、4戦全てが初戦アウェイで2敗2分、第2戦はホームで4戦全勝。敵地で弱く、ホームに強いレッズでした。
しかし今年のノックアウトステージ初戦はホームで敗戦、アウェイで完封勝利。ここに一皮向けた浦和レッズを感じるのです。
杉本選手は言っていました。「試合前から180分の試合だとみんなで話していましたし、まだ90分残っていますので、アウェイで厳しい戦いになると思いますけど、ファン・サポーターの後押しと言うか声援が必ず力になってくると思うので、選手とファン・サポーターが一つになって必ず次のラウンドに進みたいと思います」と。
ホーム・アウェイに関係無く、これからも戦いは180分間で勝利をすれば良いという発想を全員が共有し、とことん三度目のアジア制覇に向かってくれるでしょう。
今シーズンのJリーグではもがいている浦和レッズですが、アジアの戦いを最も知っているJリーグ・クラブでもあります。是非、注目してみて下さい!

追伸 : 2度目のアジア制覇に関する記事(2017年ACL)は筆者の下記既著をご覧下さい。
       
「2007年以来のアジア制覇目前!日本勢で唯一4強入りした浦和レッズ」
       
「10年振りのACL決勝進出決定! 浦和レッズvs上海上港戦観戦記」
       
「10年振りのアジア王者へ! 明日ACL決勝にJリーグと浦和のプライドを賭けて挑む浦和レッズ」
      
 「日本を代表してレアル・マドリードとの闘いへ!10年振りにアジア王者となった浦和レッズのACL最終戦記」

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