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アントラーズ 激闘の末に負った傷 その先へ続く道

佐藤文孝

2018/12/29 11:54

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後半ロスタイム、リバープレートのゴンサロ・マルティネスがドリブルで左サイドを駆け上がる。
追うこともままならない鹿島は難なくペナルティエリアへ侵入を許すと、背番号10の左足からすくい上げられたボールは緩やかな弧を描き曽ヶ端準の頭上を越える。そのままゴール左隅へと吸い込まれ、赤いユニフォームはがっくりと肩を落とした。南米王者との力の差を突き付けられる4失点目を喫した瞬間だった。

 鹿島アントラーズはアジア王者として出場したクラブワールドカップ(CWC)を4位で終えた。準決勝のレアルマドリード戦、そしてリバープレートとの3位決定戦で計7失点を奪われ、2018年を屈辱的な連敗で終えることに。自国開催だった2016年大会のリベンジマッチとして挑んだレアルマドリードには後半10分でベイルにハットトリックを決められるなど終始翻弄され続け、延長まで持ち込んだ2年前のような接戦を演じるには程遠い内容で敗れ、決勝進出を逃す。

 リバープレートとの戦いでは前半GKクウォンスンテの負傷退場直後にセットプレーで失点を許し、その後はアントラーズにも惜しいシュートがあったもののゴールネットを揺らすには至らなかった。後半に入り追加点を獲られると終了間際にも立て続けに失点、最後まで攻撃の手を緩めなリーベルに鹿島はなすすべなくゴールを奪われ続けた。

 大会直前には鈴木優馬、三竿健斗の負傷離脱もあり、シーズン国内無冠に終わった今季を象徴するかのような苦しい展開が続いた。ただ今回味わった屈辱こそ、アントラーズがさらに上に登り詰める後押しをする大きな要因になり得るのではないだろうか。

 これまで世界に君臨したチャンピオンそれぞれが決して軽くはない傷を負いながらその座を得てきた様に、アントラーズが負った痛手は必ずやそう遠くない未来、更なる栄光をもたらす気がしてならない。また今年7月、かつての黄金期を築き上げたジーコがテクニカルディレクターとして復帰、「イズム」が浸透し来季以降、様々な形となって現れるはずだ。

 ディフェンスの核としてチームを支え、日本代表にまで登り詰めた昌子は海外移籍が決定的となり、39歳の小笠原もCWCを最後に現役引退を発表した。王者・鹿島の原動力として先頭に立ち続けてきた絶対的な存在がクラブを去ることも大きすぎる打撃といえる。しかしいつの時代も鹿島アントラーズというクラブはベテラン、そして多くの若手の活躍により強者としての立ち位置を変えずにその伝統を紡いできた。鹿島アントラーズというクラブの王者たる所以はそこにある。
 
 今大会、3試合に出場を果たした19歳の安部裕葵は3位決定戦に敗れた直後、こう語った。 
「鹿島アントラーズというチームは常によくない時も乗り越えてきた。こういう雰囲気を絶対に忘れてはならない。」

 悔しさを滲ませながらも、まっすぐに前を見つめる澄んだその目は、溢れんばかりの闘志を滾らせていた。

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