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人と獣ハイブリッド、バロンドーラー ルカ・モドリッチ

松尾陽介

2018/12/19 07:45

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NEWS

ルカ・モドリッチ
クロアチア国籍
1985年9月9日生まれ 33歳

2018年のバロンドールはレアル・マドリードのMFルカ・モドリッチが受賞した。
過去10年間にわたってクリスティアーノ・ロナウド、リオネル・メッシといったスペインで得点を量産する2人の怪物が独占していたがゆえに、この賞をクロアチア人MFが獲得したことは大きなニュースになった。

「レアルの10番がバロンドールを獲得した。」と言ってしまえば、さも当然のように聞こえる。

レアル・マドリードと言えば、世界でもっとも有名なサッカークラブの1つに数えられ、背番号10というのはプロアマ問わず一般的にサッカーチームのエースないし象徴とされる選手に与えられる番号である。

しかし、どうだろう。このセリフの後に「去年1得点の選手なんだ。」
というのを付け加えると、あまりサッカーを見ない人は混乱するかもしれない。

W杯準優勝チームの要というのも大きな理由の1つであるだろうが、今回は彼のクラブでの立ち位置に焦点を当てていきたい。

猛獣たちを扱う人間

レアルと言えばベイル、マルセロ、セルヒオ・ラモス、昨年まではクリスティアーノ・ロナウドといった世界最高峰の選手が名を連ねている。
彼らはゴールを狙ったり、ボールを狩ることで人々を魅了し、華々しいプレーだけでもでお金を稼げる選手だ。
その本能的にプレーする姿はいわばサッカー界における「猛獣」のようである。

しかし、統率の取れない猛獣がいくら華やかなプレーを披露しようとも現代サッカーでは試合に勝てない。
少々例えが悪いかもしれないが、ただの動物園になってしまうのだ。
試合に勝つためにはこの集団を1つの組織にする必要がある。
簡単に言えば、動物園からサーカスへの進化である。
ピッチの中で勝手に生きる猛獣を理性的に動かし、落ち着きをもたらす「人間」がいるかいないかで、勝率は大きく変動する。
そのレアルにおける「人間」こそモドリッチやトニ・クロースだろう。
特に攻守両面をハイレベルにこなすモドリッチの貢献度は高い。

レアルにはFWのみならずDFにも猛獣を抱えている。
そのため彼は試合中ピッチを縦横無尽に無駄なく駆け回らなければならない。
派手さこそないが、的確にパスコースを読み、相手の嫌なタイミングで危険なエリアを塞ぐ動きは、どうしても前掛かりになりがちなレアルに安定をもたらしている。
そのタスクをこなしつつ、チャンスとあらば自身も獣となってゴールを狙うのである。
FIFAワールドカップのGLアルゼンチン戦、バイタルエリアでボールを保持した際、自分より前のゾーンに味方が少ないのを確認するや即座にパスからシュートに切り替え素晴らしいミドルシュートを突き刺したシーンは印象的だ。

一昔前のレジスタ、パサーと言われる選手にはあまりなかったと言っていいのではないだろうか。
「人と獣のハイブリッド」モドリッチを一言で説明しろと言われれば、私は迷わずこう答える。

イングランドで育まれたスタイル

では、彼のプレースタイルはどこで培われたのか?
思うに、レアル移籍前のイングランドで過ごした時間が大きかったのではないか。
所属したトッテナム・ホットスパーは下部組織から「どんなチーム、監督、戦術においても個性を発揮できる選手」の育成をテーマに掲げている。

「唯一生き残るのは、変化できるものである。」

『種の起源』で有名なダーウィンが残した言葉だが、これをサッカーで体現するような取り組みだ。
ちなみに、現在イングランドの顔と言ってもいいほどの活躍をしているハリー・ケインもこのユース出身である。
彼は、これといった特徴があるというよりは引き出しの多さが強みのストライカーであり、このテーマに沿った育成の成功例と言えるだろう。
元同僚のカイル・ウォーカーも世界一の戦術家と名高いグアルディオラ率いるマンチェスターシティに加入し、本職のSBではないポジションもそつなくこなす適応力を見せている。
こういった方針のクラブで一時期を過ごした経験こそ、今のモドリッチを形成しているのではないか。

選手としての旅は続く

現在33歳。
年齢を考えればキャリアは下降線をたどる時期である。
だが、モドリッチのプレーにそれは微塵も感じられない。
W杯準優勝とバロンドール獲得で燃え尽きるどころか、さらに自信を深めたようなプレーをする。
客観データに過ぎないが今季タックル成功率とデュエル勝率は50%を超え、パス成功率も90%近いなどそれは数字にも表れている。
これからもこのクロアチア人は世界のサッカー好きを楽しませてくれそうだ。

直近にはクラブW杯も

19日深夜にクラブW杯準決勝でレアルはアジアチャンピオンの鹿島アントラーズと対決する。
2年前の同カードでは当時鹿島に所属した日本代表MF柴崎岳の2得点であと一歩のところまで追い詰められたレアル。
モドリッチをはじめ、苦い経験をしたメンバーはジーコスピリットを注入された日本のクラブ相手にどのようなサッカーを見せるのか。
チームとしての動きもそうだが今回紹介したモドリッチや他の選手個人に焦点を当てて観戦することで、また違った楽しみ方ができるかもしれない。

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