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シンデレラボーイの誕生か!代表初選出の浦和レッズ長澤和輝選手

扇ガ谷 道房

2017/11/06 17:43

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NEWS

アジア最終予選を突破して、ロシアW杯出場を決めたサッカー男子日本代表チーム。
これからは、本大会の出場に向けて、各選手が凌ぎを削る日本人選手どうしの熱い闘いのステージに突入します。
最初のステージとして用意された舞台は、日本を離れてヨーロッパを舞台にした、サッカー強豪国ブラジルとベルギーとの親善試合。
長年日本代表の屋台骨を背負って来た、本田圭祐選手(CFパチューカ)、岡崎慎司選手(レスター・シティFC)、香川真司選手(ボルシア・ドルトムント)が代表をはずれた一方で、注目を集めている選手がいます。
それは浦和レッズのMF長沢和輝選手。代表初選出で、しかも浦和レッズでリーグ戦スタメン出場2試合(代表選出時点)というキャリアの選手なのです。
シンデレラ・ボーイ誕生かと、サッカーファンの噂に上る、長澤選手にスポットを当ててみました。


by wikipedia

シンデレラさながらのサクセスストーリーの開始か

日本代表選手と言えば、文字通り日本の代表ですから、日本国籍を有して、所属クラブで多くの試合に出場するスタメン級選手が選出されるのが常です。
しかも、昨今の傾向で言えば、Jリーグ所属選手よりも、世界各国選手が所属し凌ぎを削るヨーロッパ主要リーグのクラブ所属選手が多く選出されています。
  
Jリーグ所属の選手で、スタメン級の選手であっても、日本代表に選出される事が難しいという事は、多くのサッカーファンの皆さんはご承知の事だと思います。
去る10月31日に発表された最新の日本代表は、総勢25人の選手が選出されました。Jリーグ所属の選手は13人。昨今の傾向からすると、以外にもJリーグ所属選手が半数以上に上っています。
  
今回の選考には、従来とは一線を画した傾向が見られました。
一つは、今シーズンのリーグ優勝戦線から脱落した中位の浦和レッズから、クラブとして最多の5人の選手が選出されたという事。
もう一つは、特質すべき事で、所属クラブでスタメン出場がたったの2ゲームの選手が選出された事です。その選手が長澤選手です。もちろん代表初選出。大抜擢と言えます。
  
略歴は後述致しますが、今シーズン初めて浦和レッズの一員になり、8月27日の清水エスパルス戦で後半32分に投入されるまで、一度もリーグ戦に出場経験がありませんでした。
  
その後2試合途中出場した後、10月22日のガンバ大阪戦でスタメン初出場。続く10月29日のサンフィレッチェ広島戦で連続スタメン出場し、二日後の10月31日に日本代表に初選出されたのです。
  
この二ヶ月の間で、あれよあれよという間に、日陰から日のあたる場所に登場して来ました。シンデレラさながらと言えます。
それには、持ち前の才能と共に、起用されぬ間も努力を続けた忍耐力と、自分を信じる力を備えていたからに他なりません。そして、その力量を正当に評価した指揮官の存在も否定できません。

大学からブンデスリーガ2部という異色の経歴

長澤選手は、浦和レッズでスタメン2試合ながら日本代表に選出された事で、注目を浴びている選手ですが、単なるJリーガーとも違う、異色の経歴の選手と言えます。
  
筆者の既著「Jリーグ未経験ながら海外クラブに挑んでいる日本人選手」にも述べましたが、Jリーグの下部組織出身ではなく、千葉県立八千代高校、専修大学のサッカー部育ち。
  
八千代高校時代はキャプテンとして全国高校サッカー選手権に出場し、大会優秀選手に選ばれ、専修大学では全国大学選手権を制覇する等、学生選手としてはトップ選手でした。
  
大学卒業後にJリーグのクラブに加入する事なくドイツに渡り、当時2部の1.FCケルンに入団するという、学卒海外プロデビューサッカー選手なのです。
現在も1.FCケルンに在籍している日本代表のFW大迫勇也と共に、二部優勝を飾り、一部昇格に貢献するという貴重な体験をしている選手です。
2015年暮れに浦和レッズに完全移籍しますが、2016年にはJ2のジェフ千葉にレンタル移籍となり、41試合に出場し4得点を記録して、今シーズンから正式に浦和レッズの一員に加わりました。
  
昨シーズン、年間最多勝ち点を記録した浦和レッズは、今シーズンも昨シーズン同様にアグレッシブなゲーム展開で、リーグ上位を走っていました。監督は浦和レッズ6年目を迎えたミハエル・ペトロヴィッチ監督(通称ミシャ監督)。
  
Jリーグ随一のタレントを誇る浦和レッズですが、ミシャ監督は比較的選手を固定化して起用する為、長澤選手はリーグ戦で出場機会を得る事ができませんでした。
浦和レッズの一員として初めて出場したゲームは、2月28日に行われたAFCチャンピオンズ・リーグのグループステージFCソウル戦後半30分の事でした。
  
しかし、次のチャンスはなかなか訪れず、8月15日に行われたスルガ銀行チャンピオンシップでシャペコエンセ戦のロスタイム数分の出場が二度目の出場でした。
初スタメンは9月3日のルヴァンカップ準々決勝セレッソ大阪戦で、フル出場を果たします。そして前述の通り10月22日のガンバ大阪戦でJリーグ初スタメンを果たします。
  
浦和レッズにとって大きな変化は、7月30日にミシャ監督が更迭された事があげられます。後任で現監督の堀孝史監督は、ミシャ監督の築いたアグレッシブな戦術を活かしながらも、タレント豊富な戦力を柔軟に起用するという、前任者との大きな違いがあります。
  
この監督交代が、長澤選手にチャンスをもたらしたと言えます。つまり、硬直化した人事ではなく、適材適所、好調な選手を起用し、チーム内の競争意識も高めながら、チーム力を挙げる堀監督の手法が、チームにも個人にも好結果を生んだと言えるのです。
     

開花する蕾を発見する監督あってこそ

浦和レッズの堀監督は、11月4日の記者会見で、長澤選手が日本代表に選出された事に関して、監督自身の環境構築配慮があったのではないかという記者からの質問に対してこの様に述べています。
  
「環境を作ったというよりも、なかなか出場機会がないときでも、常に成長するんだ、というものを見せながら努力していた部分が一番大きいと思います。その流れの中で、出場した試合をきっかけに今回、日本代表に選出されましたが、そういうものを掴んだと思います。本当に彼の努力だと思います」
浦和レッズで出場機会に恵まれなかった時でも、努力を怠らなかった長澤選手の努力の結実だと、本人の力量を評価して、自らの配慮では無いと、断言されています。
  
トップチームのみならず、浦和レッズの下部組織で長く選手を育成し、一人ひとりの選手の個性と実像をつぶさに観て評価して来た堀監督ならではの人物観が、確実に作用したと筆者は考えています。
  
一般社会でもそうですが、力量があっても必ずしも評価されるとは限りません。上司や同僚に恵まれたり、予期せぬ環境変化が、時として人生を大きく左右するものです。
  
もちろん力量あっての話ですが、今回長澤選手が浦和レッズのスタメンを勝ち取り、ハリルホジッチ監督の目に留まって代表に選出されたのは、所属クラブと代表の両監督が、開花するだろう蕾を見逃さず、発見するという選択眼が合致した事に他ならないと、筆者は考えます。
運も実力のうちと言いますが、実力が無ければ運もやって来るものではありません。長澤選手には、その両方が合致したのです。 
  

サクセス・ストーリーへの期待

シンデレラ・ボーイは、一躍脚光を浴びるものですが、本当のシンデレラになれるかどうかは、その後の働きにかかっています。
  
ブラジルとベルギーという、世界屈指のサッカー強豪国を相手に、日本代表がどこまで戦えるのか、興味がつきない所ですが、長澤選手がこの二試合に出場できる保証は全く無いのです。
代表初選出後初めてのゲームとなった11月5日の鹿島アントラーズ戦、長澤選手は浦和レッズで3試合連続のスタメン出場を果たしました。堀監督の下で、スタメンが定着した感があります。
  
長澤選手の真骨頂は、タフな運動量にあります。ブンデスリーガという、世界的にもタフなサッカーを繰り広げるリーグを経験している事が、大きな要因として挙げられます。
  
攻守に亘ってチーム戦術にフィットできるクレバーさも持ち合わせています。どこか一つのポジションであったり、攻守どちらかのプレイスタイルに固執するのではない、ハリルホジッチ監督の求めるポリバレントな現代サッカーを体言できるスキルを持ち合わせています。
  
又、インタビューでの受け答えが極めて理路整然として、紳士的な態度な選手である事も、大きな魅力です。クレバーな選手である事が、インタビューの受け答えからも、よくわかる選手です。
  
全く違う視点ですが、長澤選手が相手選手からチャージを受けて、倒れてしまう場面に注目してみて下さい。シュミレーションでは無いのですが、日本人には珍しい派手でコケティッシュな倒れ方をするのです。筆者はとても好意的に長澤選手の倒れ方を観ています。こういう所もサッカーを観る楽しさの一つとしてお勧めしておきます。
  
さて、ブラジルとの親善試合はフランスのリールで11月10日に行われます。願わくば、長澤選手が、初選出で初出場を果たし、初得点という、三冠を達成して欲しいと筆者は期待しているのです。
  
キックオフは、日本時間午後9時に予定されています。


by The AFC Hub@Youtube

日本サッカー界においても、どちらかと言えば無名に近い長澤選手の代表選出は、シンデレラ・ボーイ誕生かと大きな話題になっていますが、ガラスの靴を履いた瞬間に、サイズが合わず舞台から去る事なく、日本代表で最もエキサイティングなサクセス・ストーリーとして、語り継がれて欲しいではありませんか。
浦和レッズのMF長澤選手は、今最も注目すべきJリーガーです。

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