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サッカーマンガに託した問題提起。そして愛媛FC愛。J2の魅力が凝縮された1冊に出会った。 <漫画家 能田 達規 氏インタビュー>

勝村大輔

2017/07/15 11:00

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『GET!フジ丸』『ORANGE』『オーレ!』『サッカーの憂鬱』『マネーフットボール』そして9月5日単行本がリリースされる『ぺろり!スタグル旅』など。サッカーマンガが好きな人であれば、この中の幾つかの、あるいは、全てのマンガ本を読破したに違いない。

上に並べた全ての作品を手掛けた能田達規氏は、漫画家でもあり、熱心な愛媛FCサポーターであり、コアなサッカーファンであればご存知だろうが、インタビュー内で明かされた顔は、かなりの熱烈な批評家であり、サッカー愛好家でもある。数々の作品に描かれてきたあらゆる角度から切り取るサッカーの側面、そして作品に込められた主張。

能田達規を信奉するサッカーファンは、きっと彼が抱くサッカー愛に惹かれていったのだろう。いったい彼は、数々の作品に何を託したのだろうか。彼が訴える問題提起を紐解きながら、新しいサッカーの楽しみ方を導き出してみたい。

最新作『ぺろり!スタグル旅』が生まれた道程

(能田)あくまでも僕の持論ですが、J1よりもJ2の方が、サポーター文化はバリエーションが豊かだと思います。それはフットボールの競技力ではなく、文化としての多様さ、私の身の回りだとJ1のサポーターの多くは、勝った負けたしか言わない印象があります。起用法が、戦術がどうこうだとか。それにJ1のホームタウンは大都市に集中している。だからアウェーに出掛けても、初めて行く都市は少なく、それほど目新しいことはない。その点、J2は地方が多いので、観光地としてのバリエーションが豊富です。応援の仕方に関しても、独自の文化が垣間見られる。愛媛にもおかしなカエル(一平くん:愛媛FCの非公式キャラクター)がいたりしてね。(笑)あんな緩さを前面に押し出すなんてあまりないですから。クラブの公式でもないのに、スタジアムの周りだけでなくゴール裏をウロウロ徘徊して、その勢いで代表戦も入ろうとするから止められる。そういう緩さが豊かさにつながっているのではないかと思います。

スタグルの話もそうですけど、3万人集まるスタジアムでみんながスタグル巡りなんて出来ないですよ。大行列ができますし、そんなのは無理。色んな物産展をやったとしてもさばききれない。それに比べて多くのJ2クラブは、数千人レベルの集客なので色んなことが出来る。集客力のないクラブのサポーターは「アウェーのお客さん、たくさん来ないかなぁ」と言って、待っているくらいですよ。愛媛県くらいになると、滅多に外から人が来ないですから、観光客以外の人との交流がほとんどない。観光客とはちょっと違うサポーターという人種が入ってくるだけで相当喜びますよね。地元の人も自治体も。

愛媛に限っていうと、ちょんまげ隊長(日本、世界を駆け回る日本代表サポーター)とかいう変わった人が、頻繁に来てくれるようになって、外からの目線を送れるだけでもありがたいです。愛媛の地元の人はJ2を馬鹿にしていますけど、全国のサッカーマニアから見たらJ2は結構高いカテゴリーじゃないですか。下から上がって来ようとしても中々上がって来られない。そういうことも知らずに愛媛県民はJ2を馬鹿にしている。県外から来た選手や監督に安い給料しか出していないのに平気で「早くJ1上がらないとね」とか言ってしまう。そのあたりを、ちょんまげ隊長みたいな人が「それはちょっと違うよ」と教えてくれることは、とてもありがたいですね。

——能田さんは熱心な愛媛FCサポーターとしても有名ですが、サポーターになったきっかけを教えてください。

(能田)僕は、2002年日韓ワールドカップ時に『ORANGE』という漫画を描いていました。この作品を描こうと思ったきっかけは、以前にもサッカー漫画を描いていましたが、その時は、Jリーグは色んな地方にクラブがあって羨ましいな、でも四国には永遠にできないだろうと思っていて、じゃあ漫画の中だけでも実現しようと思って描きました。

その頃、JFLに愛媛FCがあることは知っていましたが、Jリーグを本気で目指しているとかはあまり知りませんでした。ま、愛媛にプロサッカーは無理だろうって。連載していた2年くらいのちょうど終わりの方に、愛媛FCの事務局から電話がありました。どうやら、事務局に出入りしていた人が、当時連載していたチャンピオンの熱心な読者だったそうで、当時の事務局長にちょっとお話しさせてもらえませんかと声を掛けられました。怒られるのかなと思いましたよ。(笑)

で、実際に当時の愛媛FC事務局長に会ってみて、「多くの人に愛媛FCを知ってもらえるようなアイデアはないですかねぇ?」と相談されて、「それなら何かキャラクターでも描きましょうか」ということになり、今のみかんのキャラクターを作りました。その頃はまだ愛媛FCは青いユニフォームでしたね。

その時期を前後して突然、隣県の徳島がJリーグを目指すことになり、それに続いて今度はザスパ草津もJリーグ目指すことになって、急に当時のJFLでJリーグ目指すクラブが3つになって、三つ巴の戦いなったんです。そしてその年のJFLで他の2つのクラブがJ2に昇格して愛媛だけが残ってしまうというのを目の当たりにしました。それで逆に楽しくなってしまって、応援し甲斐が出てきて、翌年は背水の陣だといって盛り上がり、ユニフォームもオレンジ色に変えて、みかんのキャラクターも採用されて、「Jリーグ目指すぞ!」ということで、最後のJFLで優勝しました。ボクも当時、本田技研との昇格をかけたアウェー戦に駆け付けましたが、勝って、興奮して、そりゃあハマりますよね。(笑)しかも自分が作ったキャラクターをマスコットにして貰っていますし。それ以降は、愛媛FCサポーターです。

——『ぺろり!スタグルグルメ旅』は、どのような経緯から生まれたのでしょうか。

あれは僕から出した企画ではなくて、編集者からの企画ですね。僕の漫画は、いつも僕が好き勝手やっている風に思われますけど、大抵は編集側からの提案です。ただ、いざ僕が漫画を描くとなると、愛媛絡みの話や、身近な情報を元に考えるので自然と偏った内容になってしまうだけです。実際、海外サッカーとか全然詳しくないですしね。そんなのだからスタジアムグルメの話であっても、どうしてもボクの色に染まってしまう。ただ、題材としてスタグルを取り扱ってよかったなと思うのは、J2は全国各地に広がっていますし、しかも、アウェー客にもウェルカムな雰囲気もある。J2好きスタグル巡りの相性はとてもよかった。そこが良いところですね。

あと作者は愛媛のサポーターなのに、千葉のクラブのサポーターを主人公にしたのは、愛媛から全国のアウェイを廻るのは、とても大変だと思ったからです。愛媛に比べると、千葉は交通網が便利ですから。成田も羽田も使えるので、LCCも使い易いですし。愛媛の人間は大変ですよ。東京に行くよりも、鳥取の方が遠いですからね。海挟んで、中国山地挟んで、車で6時間くらいかかってしまう。関東に住んでいれば鳥取でも直行便がありますからね。

だから、スタグル巡りの話はリアリティの面においても、関東のチームのサポーターを主人公にするしかないなと思いました。あと、やはりアウェーを巡っている人は、お金持ちですから。そんなに自由にお金を使える人といったら、関東に住んでいる独身の社会人くらいしか思い浮かばなかった。実際、出身者でもないのに、一平くん目当てで関東から通っている人たちは、金銭的余裕にある社会人さんたちですしね。

——もう一つ、あの作品の中で、気になったのは、Jリーグではなく、Nリーグになっていたことですが、やはり、ライセンスの問題など難しい面があったからなのでしょうか。

(能田)昔はJリーグ側が権利にうるさいから無理だという話でしたが、今は、僕の方が最初から望んで架空のリーグにしています。もちろん権利とかそういうのが面倒というのもありますし、実際に取材したとしても、どのスタグルを扱うか、実物はこうではないとか、実名を使ってしまうと、色々と文句が出てくるじゃないですか。ストーリーを考える上でも自由度を狭めたくはないですからね。描いている方も楽しみたいですから。

J2×スタグル サッカー観戦の魅力を紐解く


by 愛媛FC公式ページ

——能田さんは、全国各地に取材に行かれていると思いますが、スタグルに着目することで、新しいスタジアムの楽しみ方、これまでになかった発見などありますか。

(能田)確実に年々、充実していますよね。J1ならば最初から出来上がっている部分はあると思いますが、J2においては、最初がさびしかった分、毎年どんどん進化している印象があります。以前は町内会の運動会くらいの規模だったのに、グルメに限らず、子供たちが遊べるスペースとか、驚くほど進化しています。水戸とか。その背景には、笠松から水戸に移転したこともあるのかなと。ホームスタジアムをきちんと構えることで人が集まりやすくなりますし、自治体との協力関係も重要かなと思います。

——スタグルを提供する側にとっては、商売は、スタジアム集客に委ねられるというリスクが生じますよね。

(能田)愛媛とかは本当にお客さんが少ないので、全然儲かってないと思います。愛媛の場合は市町村が持ち回りで、採算度外視で出店していたりしてますし、タコ飯200円とか、スタグルとしては凄く安いので、儲かっているわけがない。愛媛は少し特殊ですね。ボランティア団体とプロの商売が混ざってしまっているので、ビジネスの場としては如何なものかとは思いますけどね。ただ、その混沌とした未完成な部分も外から来る人にとってみれば魅力的かもしれません。

——能田さんが集客を含めて、スタジアムの環境が充実していると思うクラブは何処でしょうか。

(能田)岡山ですね。松本などはやはり専用スタジアムという箱が魅力的ですが、周りの環境はそれほど良くはない。岡山はやはり街中ですし、大学が近いですし、若い人を呼び込める条件が揃っている。Jリーグが困っているのは高年齢化ですから、学生が気軽に来られる立地は魅力ですよ。

だって国立大学がスタジアムの横にあれば、大学生は常に毎年、何千人単位で供給され続けるわけですから。新規顧客が向こうからやって来て、それを相手に営業できるわけですから。商売としてこんな魅力的なことはない。そう言った意味でも、岡山はまだ伸びしろはあると思います。広島と近畿に挟まれて、プロ野球球団も今までなかったわけですから、Jリーグクラブが商売するには、とても条件がいいと思います。

やはり、何よりも立地が大事ですね。専用スタジアムの臨場感とか、そういう高尚なことは、僕はまだ求めてはいなくて、ただ人が集まりやすい場所が欲しい。それがスタグルなり商売に結びつくと思う。

——こういったサッカーにまつわる背景を熟知しているからこそ、あのような漫画が描けるのですね。

(能田)サッカーの勝ち負けより、周りのトピックが面白過ぎますよね。掘れば掘るほど嫌な部分も見えてしてしまいますけど。(笑)

数々の作品に込められた想い

——能田さんはこれまで沢山のサッカー漫画を描いてきましたよね。

(能田)『ORANGE』はそういう経緯で愛媛FCにつながっていきましたが、その後『オーレ!』という漫画を描きました。これは木更津にチームがあって、市役所の人間が頑張って県庁の星になるという話です。クラブ経営を漫画でやろうという企画で、当時、サカつくというゲームが流行りましたから、大人向けの漫画ですね。木更津を舞台にしたのは、当時、テレビのビジネス番組で木更津が特集されていたのを観たから。木更津にアクアラインが通ったおかげで、豊かになっているかといったらとんでもない、みたいな内容で。木更津はストロー現象で、どんどん若者が吸い取られ、街中は閑散としている。だったら、そこにサッカーチームを作って町興しだ!みたいな発想でチームを立ち上げたらどうなるかを描いた、そんな漫画です。

編集部側としては、サッカービジネスだ!とかいって景気の良い話を期待されていたそうですが、僕が描いたのは2部リーグの貧乏クラブの話でした。だって僕の興味がそっちなのですから。(笑)その後は、『サッカーの憂鬱』という、サッカーにまつわる職業を、取材に基づいて描いた漫画ですね。そして次は『マネーフットボール』です。これはズバリ愛媛を舞台にして、理想の愛媛FC像を夢見て描いている漫画ですね。街中にちゃんとスタジアムがある。それでも貧乏だ、という。僕が言いたいのは、愛媛県の一番良い立地にスタジアムを構えたとしても、都市の規模的には、J2の中位に行けるかどうかだよと。今の愛媛FCの成績は少ない予算にもかかわらずあり得ないほどの現場の頑張りによってもたらされているものであって、地元県民が勘違いしてはいけないということ。

——漫画を通じて問題提起をなされているわけですね。

僕の漫画を読んでくれている愛媛FCのサポーターは、大体賛同してくれるようになりました。愛媛に縁もゆかりもなかった選手たちがどんな大変な覚悟で愛媛に来てくれているのか考えて欲しい。そして劣悪な条件で如何に愛媛の選手たちが頑張っているのかを考えて欲しい。実際、チームは予算以上の成績を収めているのだから現場が文句言われる筋合いはないですよ。愛媛FCのサポーターは本当に恵まれていますよ。チームは頑張っているし、スタジアム問題は別として、たとえJ3に落ちても応援し続けようよ、というのが僕の訴えです。今の山奥のスタジアムではJ3が相当ですから。いざ、成績が悪くなって、降格という時が来たとしても、選手や監督にだけには当たって欲しくない。だってほとんどの選手や監督は県外からやって来た県外の金銭感覚を持った人たちですよ。愛媛県民が自分たちの金銭感覚を押し付けても無理ですよ。ならば自前で育成をがんばると言っても限界はあります。有能な地方の若者ほど外に出たいと思うものです。これはどうしようもありません。地方が全国リーグに参加するということはそういうことです。漫画を通して正しいプロスポーツの見方を伝えたいですね。

——本日はお忙しい中ありがとうございました。

能田 達規(のうだ たつき)
漫画家/1970年6月27日生まれ/愛媛県松山市出身/千葉県在住
第一回ファミ通マンガ大賞入賞「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)で活躍。代表作は『おまかせ!ピース電器店』など。サッカー好きとしても知られ、サッカーマンガとして『GET!フジ丸』や1部リーグ入りを目指す地元愛媛のサッカークラブを描いた『ORANGE』やサッカークラブと地域活性化問題を織り交ぜた意欲作の『オーレ!』がある。以前は広島大学出身ということもあり、愛媛に最も近かったJリーグクラブであるサンフレッチェ広島を応援していたが、現在は地元に誕生した愛媛FCの熱心なサポーターである。『ORANGE』が縁となり愛媛FCと繋がり、マスコットキャラクターのデザイン、スタジアムに掲示される選手のなども担当。本稿で紹介させていただいた作品に『サッカーの憂鬱』『マネーフットボール』がある。
9/5 『ぺろりスタグル旅』単行本発売予定!!

今回のインタビュアー勝村大輔氏のサイトでインタビュー後記を掲載しておりますので、こちらもご閲覧くださいませ。

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